卵巣は子宮の両わきに各ひとつずつある親指大の楕円形の臓器です。生殖細胞である卵子がそこで成熟し、放出されます。それとともに周期的に女性ホルモンを分泌しています。
卵巣にできる腫瘍の85%は良性です。卵巣の腫瘍はその発生する組織によって大別されます。最も多いのは、卵巣の表層をおおう細胞に由来する上皮性腫瘍 で、この中には良性腫瘍と悪性腫瘍(がん)の他に良性、悪性の中間的な性質をもつ腫瘍(中間群)があります。上皮性腫瘍はさらに5つの細胞型に分かれ、そ れぞれ異なった性格をもっています。上皮性のがんは卵巣がんの90%を占めています。
卵巣がんの中で次に多いのは、卵子のもとになる胚細胞から発生するがんです。これについては「卵巣胚細胞腫瘍」の項を参照して下さい。
年齢別にみた卵巣がんの罹患(りかん)率は40歳代から増加し、50歳代前半でピークを迎えてほぼ横ばいになり、80歳以上でまた増加します。罹患率の年 次推移は、1975年以降緩やかな増加傾向にあります。卵巣がんの死亡率は、50歳以降増加して高齢になるほど高くなります。卵巣がんの死亡率の年次推移 では1990年代後半まで増加傾向にあり、それ以降は横ばい状態です。
卵巣がんの組織型は多様であり、その発生も、単一の機序では説明できません。卵巣がんの発生と、強い関連性を示す単一の要因はありません。卵巣がんの発生 には、複数の要因が関与していると考えられています。卵巣がんの確立したリスク要因は、卵巣がんの家族歴のみとされています。大部分の卵巣がんは散発性で すが、家族性腫瘍として、乳がんと同じく、BRCA1、BRCA2遺伝子の変異が知られています。他に、リスク要因として出産歴がないことが指摘されてい ます。また、経口避妊薬の使用は、卵巣がんのリスクを低下させます。婦人科疾患では骨盤内炎症性疾患、多嚢胞性卵巣症候群、子宮内膜症がリスク要因として 指摘されています。その他、可能性のあるリスク要因として、肥満、食事、排卵誘発剤の使用、ホルモン補充療法が挙げられます。
卵巣は腹部にあって腫瘍ができてもはじめはほとんど自覚症状がありませんので、2/3以上は転移した状態ではじめて病院を訪れます。卵巣がんに最もよくお こる転移は、腹膜播種(ふくまくはしゅ)です。転移は卵巣の表面からちょうど種をまくようにがん細胞が腹膜に拡がっていくので「腹膜播種」といわれていま す。腹膜播種は卵巣の周りにおこりやすいのですが、横隔膜という、卵巣から最も遠く離れた腹膜にもよくみられます。腹膜播種が進むと腹水がたまってきま す。横隔膜からさらに胸腔内にがんが拡がると胸水がたまってきます。
リンパ節転移もよくおこります。これは後腹膜といって腹部大動脈の周りや骨盤内のリンパ節がはれ、次第に胸部や首のリンパ節にも拡がっていきます。
転移のない卵巣がんは手術だけで治りますが、転移した状態ではじめて治療を受ける場合は、手術だけですべてのがんをとり除くことはできません。残された腫瘍に対しては、手術後に抗がん剤による治療が行われます。
症状
初期にはほとんど症状はありません。卵巣がんには、転移しにくいがんと転移しやすいがんがあります。転移しにくい卵巣がんは、がんができてから長期間卵巣 内にとどまって発育しますから、腫瘍がまだ大きくないうちは、検診などで婦人科の診察を受けた時に偶然発見されることもあります。腫瘍が大きくなると下腹 部にしこりが触れたり、圧迫感があったり、あるいは膀胱が圧迫されて尿が近くなるなどの症状で婦人科を受診することになります。転移しやすいがんの場合 は、腫瘍が卵巣内であまり大きくならないうちに転移してしまうため、腹水のために腹部全体が大きくなるとか、胸水がたまって息切れがするなど、転移による 症状ではじめて異常を自覚することが少なくありません。
治療法
治療方法には外科療法、放射線療法、化学療法があります。
1)外科療法
卵巣がんは手術によって 診断が確実にできます。また、がん細胞のタイプや拡がりの程度がわかり、その後の治療方針が決まります。卵巣がんの手術は転移の状態、年齢などによって異 なりますが、次のような方法のうちから普通(1)と(2)が行われ、さらに(3)と(4)が行われることがあります。
(1)卵巣の切除
片側の卵巣、卵管だけを切除する場合と両側の卵巣、卵管、子宮を含めて切除する方法があります。
(2)大網(たいもう)切除
大網とは胃から垂れ下がって、大小腸をおおっている大きな網のような脂肪組織です。大網は卵巣がんの転移が最もよくおこる組織であり、切除しても実害はありません。
(3)後腹膜リンパ節郭清(かくせい)
後腹膜リンパ節は卵巣がんの転移がおこりやすい部位のひとつです。転移が疑われるリンパ節を採取して検査することをサンプリングといい、リンパ節とリンパ管を系統的にすべて切除することをリンパ節郭清といいます。
(4)腸管などの合併切除
腹腔内の転移をできるだけ切除するために、大腸、小腸、脾臓などをがんと一緒に切除することもあります。
2)放射線療法
高 エネルギーX線を身体の外から照射する外照射と、放射性リン(32P)の溶液を腹腔内に注入して内部から腹膜の表面を照射する方法があります。卵巣がんで は手術後の残存腫瘍に対して、以前はよく放射線療法が行われましたが、最近では化学療法のほうが主に行われています。しかし、脳に転移した腫瘍に対しては 放射線治療が行われます。
3)化学療法(参照:がんの薬物療法)
抗 がん剤を使う治療を化学療法といいます。抗がん剤は手術でとりきれなかったがんに対する治療として使われます。卵巣がんは、成人のがんの中では抗がん剤が 比較的よく効くがんのひとつです。抗がん剤は内服、あるいは静脈注射で投与されます。また、直接腹腔内に注入されることもあります。いずれの場合でも、抗 がん剤は血液中に入り全身に広がって作用します。抗がん剤はがん細胞に強い障害を与えますが、正常の細胞にも影響を与え、副作用をおこします。抗がん剤を 繰り返し使うことによって、がん細胞が完全に消滅することもありますから、効果がある限り、ある程度副作用がおこるまで使用します。卵巣がんによく使われ る抗がん剤の副作用として、血液中の白血球と血小板の減少、貧血、吐き気や嘔吐、食欲の低下、脱毛、手足のしびれなどがおこります。
治療は病期、年齢、がんの組織型、がん以外の病気の有無などによって異なります。病状に応じて現在、最も有効と認められている治療は標準的治療と呼ばれて います。難治性のがんでは、標準的治療は満足できる結果を多くの場合もたらすことができません。そのためさまざまな新しい治療法が研究され、試みられてい ます。
新しい治療法はよりよい治療を目指して行われますが、必ずしも標準的治療よりもよい結果をもたらすとは限りません。新しい治療法の試みは、担当医だけで行 うのではなく、多くの専門家の管理のもとで「臨床試験」として行われます。新しい治療と標準的治療を比較する臨床試験を比較試験といいます。比較試験の結 果、新しい治療が優れていることがわかれば、新しい治療を標準的治療とします。
これから卵巣がんの治療を受ける場合は、「現在の標準的治療」を受けるか、「臨床試験中の新しい治療」を受けるかどちらかを選ぶことになります。
