生活習慣病の治療法
糖尿病治療
概要
* 初期糖尿病の治療で重要なのが、食事療法と運動療法である。
高血糖ストレスによるインスリン分泌細胞の疲弊、死滅が進行する前に開始することが望ましい。
耐糖能異常の段階から生活習慣の修正や体脂肪減量を行うことが
糖尿病患者の発生を防ぐために推奨されている。
体脂肪の中でも内臓脂肪の減量が重要とされ、インスリン抵抗性を解除し、
高血糖状態からインスリン分泌低下の悪循環を和らげることができる。
* 血糖値が高い状態であれば、経口血糖降下薬を用いた薬剤療法開始、インスリン療法開始を行う。
最近では血糖が高い状態で長い時間経過するということ自体がその後のさまざまな合併症を
引き起こすことが指摘されており、できるだけ早期の治療を行うよう世界中の学会が
声明文を出している。
食事療法
日常の生活強度に合った食事をする必要がある。
1日あたりの総エネルギー量の目安は、
総エネルギー量=標準体重×生活活動強度指数
* 生活活動強度指数
* 軽労働(主婦・デスクワーク):25~30kcal/kg
* 中労働(製造・販売業・飲食店):30~35kcal/kg
* 重労働(建築業・農業・漁業):35kcal/kg
で計算し、食事量を決める。エネルギー量の計算は、80kcalを1単位として計算する方法が簡単で、
一般的である。
例えば、デスクワークの多い成人男性では、1500kcal~1600kcal(約20単位)ということになる。
近年糖尿病の食事療法は必ずしも総エネルギー量制限を主とする療法のみではない。
血糖を上昇させる主たる栄養素は炭水化物であるとの仮説から、糖質制限食を導入する動きも
一部にあり、一定の成果をあげている模様である。
糖質を制限する食事は食後血糖値の上昇を押さえることには異論は無い模様であるが、
年単位以上の長期にわたってそのような食事スタイルを継続することによる、
糖尿病以外の病気発生リスクに関する評価はまだはっきりとはなされていない。
一般に高血糖状態におかれている場合、血管に与えるダメージを軽減する必要性から
血糖値を下げることは非常に重要であるが、炭水化物からとる分のカロリーを蛋白質・脂質から
摂取するようにした場合、その分だけ腎臓に負荷がかかることとなるため、腎機能が低下している、
もしくはその徴候の見とめられる患者に対して糖質制限食は不適当である。
運動療法
医師の指導に従って、自分に適した運動メニューを作り実行する。
いきなり激しい運動をするのは避け、徐々に運動を習慣づけるのがよい。
筋への糖取り込み率を高め、インスリン抵抗性を改善する働きもある。
薬物療法
経口血糖降下薬
インスリン製剤
1921年にインスリンの分離に成功。
1型糖尿病では現在のところ唯一の治療法である。 製剤の種類
* ヒト型インスリン:大腸菌や枯草菌にヒトインスリン遺伝子を導入しインスリンを生産している。
亜鉛などで持続時間をかえた中間型(NPH or N:Neutral Protamine Hagedorn)
•持続型(U:Ultralente)と速効型(R:Regular)があるが、Ultralenteはいまや滅多に使用されない。
また速効型と中間型を10%から50%の割合で混ぜた混合型インスリンも使われる。
* インスリンアナログ:新しい遺伝子組換え技術を利用して、
アミノ酸配列を変更したインスリンで、「超速効型」と呼ばれる効果の早いインスリンである。
投与方法
インスリン注入には2通りの方法がある。
ペン型注射器を使用するのが一般的である。
* ペン型注射器
インスリンのペン型注射器
インスリンのペン型注射器
ペン型注射器を用いて、1日数回の皮下注射によってインスリン注入を行う。
* インスリンポンプ
コンピューター制御で自動的にインスリンを注入する機械で、
膵臓に似せたインスリンの注入スケジュール・プログラムを入力できるものである。
これによる治療をインスリン持続皮下注療法という。
インスリンポンプを使うと、針は刺しっぱなしでよく、針の刺し換えは 3日に1回程度で済む。
短所としては、生体の膵臓は体調に合わせてインスリンを分泌するが、
インスリンポンプはプログラムに合わせて人間の生活を管理しなければならないということ、
また器械が故障すると糖尿病性ケトアシドーシスなどの事故も起こりうるので、
患者はペン型注射器を予備として常備しておく必要があることである。
GLP-I注射薬
exenatide (BYETTA ™)など
血糖値はどれくらいならよいのか
糖尿病のコントロール状態は食前または食後血糖値、またHbA1cを測定することで評価する。
HbA1c(ヘモグロビンエーワンシー)は、ヘモグロビンに糖が付着したもので、
過去1~2ヶ月の平均的な血糖値を反映する。
一方、グリコアルブミンは過去数週間の血糖変化と、食後血糖を反映する検査値である。
実際の治療目標は、血糖値に関して理想的には食前110mg/dL以下
(近年、アメリカでは100mg/dL以下を推奨している)、食後 140mg/dL未満を目標とする。
HbA1cに関しては日本糖尿病学会によると、5.8%以下は優、5.8-6.5%は良、
6.5-8.0%は可 (6.5-7.0%は不十分、7.0-8.0%は不良)、8.0%以上は不可と評価される。
臨床研究によると、HbA1cが7.0%をこえたり、食後血糖値が200mg/dLを越えると、
その後の合併症の危険度が増大することがわかっている。
糖尿病患者はインスリンそのものの分泌のタイミングが健康な人よりも遅いことが多いか、
分泌されても感受性が低下しているため、食前よりも食後の高血糖を起こしやすく、
なおかつ血糖降下薬を用いてもコントロールが難しい。(一日の血糖平均値は低下する。)
食後数時間のみが高血糖状態であることを「かくれ糖尿病」と表現することもある。
一日のうち数時間のみが高血糖でも、長い年月にわたりその状態が継続すると、
通常の糖尿病と同様に合併症発生のリスクにさらされる。
このようにとりわけ食後の血糖値をいかにして正常範囲に保つかが、
今後の糖尿病の合併症予防の課題といえる。
糖尿病性網膜症
治療
増殖性網膜症は対症療法としてレーザー光凝固療法、硝子体切除術を行う。
光凝固療法はレーザーで酸素欠乏状態のために新しい血管を要求してしまう網膜を焼き潰すことで、
血管新生を抑制する。
焼き潰す様子を凝固と言う。
硝子体切除術は、すでに生じた増殖組織を取り除くとともに、増殖組織が進展するための
「足場」を撤去する意味合いがある。
糖尿病性腎症
治療
薬物療法
浮腫に対しては、腎糸球体濾過量を低下させないループ利尿薬を用いる。
糸球体肥厚や硬化を防ぐために糸球体内圧を下げるアンギオテンシン変換酵素阻害薬や
アンギオテンシンII受容体拮抗薬の有用性が示されるが、全身の血圧も十分降圧する必要もあり、
Ca受容体拮抗薬など他の降圧剤も組み合わせて用いる。
尿毒を便から排泄させる球形吸着炭(クレメジン)やカリウム排泄剤、酸塩基平衡を
補正するための重曹やクエン酸ナトリウム・カリウム合剤を内服し、
腎性貧血が進行した場合エリスロポイエチンの注射を行う。
人工透析
腎症が進行すれば腎機能が完全に廃絶し透析に至ることもある。
クレアチニンが透析導入を判断する基準となる。
腎移植・膵腎移植
日本では臓器提供が少ないので、移植例数がすくない。
膵臓の一部と片腎の提供でも、特に1型糖尿病患者では生活の質が向上するので、
生体移植も試みられている。
膵臓と腎臓は心臓死移植でも提供可能である。
移植後、糸球体病変の可逆的変化が観察される事が報告されている。
高脂血症
治療
体脂肪率の減少により大きく数値を低下させることが可能である。
2-3kgの減量が大きな影響を与える。
食事療法
日常の生活強度に合った食事をする必要がある。
目安は、
* 総エネルギー量(kcal)= 標準体重(kg) × 生活活動強度指数(kcal)
o 生活活動強度指数
+ 軽労働(主婦・デスクワーク):25-30 kcal
+ 中労働(製造・販売業・飲食店):30-35 kcal
+ 重労働(建築業・農業・漁業):35-40 kcal
で計算し、食事量を決める。エネルギー量の計算は、80kcalを1単位として計算する方法が
簡単で、一般的である。
例えば、デスクワークの多い成人男性では、1500kcal~1600kcal(約20単位)ということになる。
その他、以下の点に注意して食事をすることが重要である。
* 毎日、いろいろな食品をとり混ぜて、バランスよく摂取する。
* アルコール、甘いものは控えめにする。
* 食物繊維をとる。
* 1日3食きちんと食べる。
運動療法
医者と相談してメニューを決めて実行する。
いきなり激しい運動は避けるべきである。
投薬による治療
スタチン系などの脂質降下薬(LLD : lipid lowering drug)である程度血中の中性脂肪や
コレステロールを下げることができ、合併症の発症リスクが下がるとされる
(→根拠に基づいた医療)。
ただし、薬剤治療は高脂血症の原因を解決するものではないので中止すれば
また以前の値に戻ることが多く、そのことを指して「一生やめられない」と表現されることもある。
これは、麻薬のように身体依存性があったり、ステロイド製剤のように急に中止できないという
意味ではない。
根本的なコントロールには生活改善が望まれるが、遺伝素因も大きいため必ずしも
生活習慣だけで治療できるものではない。
投薬による治療
透析による治療
LDLアフェレーシスといわれ、重度の家族性高脂血症を患う人などに行う治療法である。
患者の血液を取り出し、LDLなど不要なものをろ過して体内に戻す方法で、
血液中のコレステロール量は急激に減少するがすぐに元に戻ってしまうため、
2週間に1度は治療を行う必要がある。しかし、これも根本的な解決には至らない。
高血圧
管理・治療
ガイドラインに定められた期間を食事療法や運動療法を行い、
それでも140/90mmHgを超えている場合は降圧薬による薬物治療を開始する。
近年は大規模臨床試験がいくつも出そろい、高血圧治療指針(ガイドライン)では
科学的根拠に基づいた降圧薬の選択を推奨している。
* 食事療法
o 食塩制限
原因によらず、ほぼすべての高血圧で塩分摂取制限は必須となる。
健康ブームに乗って「この天然塩はミネラル豊富なため多く摂っても高血圧にならない」
などの宣伝が散見されるが、このような文言を鵜呑みにすることは非常に危険であると
言わざるを得ない(上記メカニズムにより、問題は食塩の質ではなく量である)。
* 禁煙
喫煙など動脈硬化を促進する生活習慣も断つ必要がある。
* 薬物療法(降圧薬)
1. なにもリスクがない患者では、コストが安い利尿薬やカルシウム拮抗薬を第一選択とする。
60歳未満ではACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、β遮断薬なども用いられる。
2. 降圧利尿薬は古典的な降圧薬であるが、低カリウム血症、耐糖能悪化、尿酸値上昇などの
副作用にもかかわらず、最近の大規模臨床試験の結果では、アンジオテンシン変換酵素阻害薬
(ACE阻害薬)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬、Ca拮抗薬などの新しい世代の降圧薬に劣らない
脳卒中、心筋梗塞予防効果が証明されており、米国では第一選択薬として強く推奨されている。
降圧利尿薬は痛風の患者には使用するべきではない。
3. 糖尿病や腎障害の患者では、ACE阻害薬またはAII拮抗薬を第一選択とするが、
これらの合併症がある場合には、130/80mmHg未満の一層厳格な降圧が必要とされるために
長時間作用型Ca拮抗薬の併用も不可欠である。
腎障害が高度な場合にはACE阻害薬やアンジオテンシンII受容体拮抗薬は用いることができない。
4. 心不全の患者では、ループ利尿薬に加えて、ACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬の
併用が有効である。
最近βブロッカーの少量追加も有効であるとのエビデンスも蓄積されている。
5. 虚血性心疾患の患者では、従来はβブロッカーが第一選択であったが、
最近はACE阻害薬またはAII拮抗薬や長時間作用型Ca受容体拮抗薬の有用性も証明されている。
とくに冠動脈のれん縮による狭心症合併例では長時間作用型Ca拮抗薬が有効である。
6. 高齢者高血圧に関して、以前は根拠がないままに積極的な降圧は必要が
ないとされていたために2000年版の日本の高血圧治療ガイドラインでも高齢者では高めの
降圧目標値が設定されてきた。
しかし最近の大規模臨床試験では年齢に関わりなく積極的な降圧が必要であることを
明らかにしており、欧米の高血圧治療ガイドラインでは年齢による降圧目標値の設定は
おこなっていない。
また日本の高血圧治療ガイドラインも2004年版では高齢者高血圧も 140/90mmHg未満までの
降圧が必要であるというように変更された。
7. 妊婦に対しては、多くの降圧薬に催奇形性があるかあるおそれがあり、
ヒドララジン、αメチルドーパのみを使用する。
8. αブロッカーは、基本的に推奨されないが、前立腺肥大症を合併している患者などでは
有用かもしれない。
しかし、 αブロッカーは最近の大規模臨床試験ではもっとも古典的な降圧薬である
降圧利尿薬よりも脳卒中や心不全予防効果が劣ることが明らかになり、
最近の欧米の治療ガイドラインでは第一選択薬からはずされている。
日本では相変わらず主治医の裁量ではあるが、その裁量を欧米の医療に即している医師と、
上記のうちいくつかを改変した日本独自の考え方をもつ医師がいる(こちらのほうが多い)。
日本独自の考え方としては、
1. 日本の医療は国民皆保険でありコストを考える必要はあまりないため、
安価で切れ味の悪い利尿薬をわざわざ使用する必要はなく、たとえリスクの低い患者であっても
最初から高価で切れ味の良いACE阻害薬やAII拮抗薬から始めても良い。
2. Ca受容体拮抗薬は副作用が少なく血圧を大きく下げるため、多くの場合で有用である。
危険因子として特に比重の高い、脳出血は同剤の開発後、降圧療法が効率的に行える様になり、
減少している。
虚血性心疾患においても、日本人では冠攣縮の関与が大きく、Ca受容体拮抗薬が有効である。
3. 降圧利尿薬は廉価であるが、耐糖能の悪化や尿酸値上昇、低カリウム血症といった
副作用により、敬遠する医師が多かった。
しかし多くの臨床試験によってACE阻害薬、アンジオテンシンII受容体拮抗薬などの
最近の高価な降圧薬と同等か、それ以上の脳卒中、心筋梗塞予防効果が明らかになっており、
最近見直され処方する医師が増えている。
高尿酸血症
治療
食事療法
o もっとも重要なことは、アルコールの適正な摂取である。
特にビールの摂取量は少ないほうが好ましい。
o 食事の影響はそれほど強くはないものの、牛肉などプリン体の多い食事は
制限するべきと考えられている。
o 水分の摂取を多くすれば、尿酸の尿中への排泄が促進され発作を予防する。
* 薬物療法
o 米国のガイドラインが、痛風発作をおこしていない高尿酸血症患者に対する
治療を推奨していないことから、やや現場に混乱がある。
ただ、米国の考え方にはコストの考えが強く働くため慎重に見極める必要がある。
日本では、痛風をおこしたことがなくても血清尿酸値>9.0mg/dLが薬物療法の適応と考えられている。
尿酸産生亢進型の患者には尿酸合成阻害薬(アロプリノール)、尿酸排泄低下型の患者には
尿酸排泄促進薬(ベンズブロマロン、プロベネシド)を使用するのが原則である。
ただし、尿酸排泄促進薬は尿中の尿酸値を増大させ尿酸結石のリスクとなる。
尿中pHが5以下の患者では、尿をアルカリ化するためウラリット(クエン酸ナトリウム製剤)を
内服しなければならない。
