エイズ(後天性免疫不全症候群:AIDS)は、ヒト免疫不全ウイルス(HIV—1)の感染によって引き起こされる疾患です。HIV感染症は性感染 症で、異性間あるいは男性間の性行為により感染します。また血液を介しても感染します。薬物中毒者の針の使いまわしで感染したり、出産時に感染した母親か ら赤ちゃんに感染したりすることもあります。
■症状
HIV感染症に特徴的な症状はありません。感染成立後に起こる急激なウイルス増殖に対する免疫反応として、発熱、頭痛、関節痛、倦怠感(けんたい かん)、発疹、リンパ節の腫大、一過性の末梢血リンパ球低下などの、一般的なウイルス感染症の症状を示すことがありますが、無症状のこともあります。特徴 的な所見がないことから、HIV—1に感染した事実に気がつかないことが多々あります。
HIV感染症は、5〜10年ほどかけて感染者の免疫力を 奪っていきます。この間、無症状で経過することが多いのですが、HIV—1は生体内で盛んに増殖をするため、血液検査で白血球数や血小板数の減少を認める 場合があります。そして、病気の進行とともに発熱、倦怠感、食欲不振、吐き気・嘔吐などの症状が出てきます。
最終的に深刻な免疫不全に陥り、カリニ肺炎などの日和見(ひよりみ)感染症、悪性腫瘍、痴呆(ちほう)症状などを合併します。免疫不全症状を示すようになった状態を、エイズ(後天性免疫不全症候群)と呼びます。
■治療法
HIV感染症の治療薬剤は現在17種類あります。逆転写酵素阻害薬(ぎゃくてんしゃこうそそがいやく)と呼ばれるものが10種類、プロテアーゼ阻 害薬と呼ばれるものが7種類あります。これらの薬剤を3剤以上組み合わせた多剤併用療法が、標準的な治療法として行われています。
多剤併用療法は著しい効果をあげており、この治療方法が始まってから、エイズで亡くなる患者さんの数は大幅に減りました。それでも、多剤併用療法でHIV感染症を根治することはできないため、患者さんは生涯薬をのみ続けなければなりません
■予防法
HIV の感染予防の基本は、以下の1〜3の主な感染経路を遮断することにあります。
1. 血液を介した感染経路の遮断:汚染血液・血液製剤による輸血の危険を回避するための血液スクリーニング。薬物乱用者との薬物の回し打ち(ニード ル・シェアリング)を行わないこと。我が国ではさらに、検査目的で献血が行われることのないような体制作りと啓蒙活動が必要です。 血液スクリーニングは、日本赤十字の血液センターにおいてHIV抗体検査とNAT検査(HIV遺伝子-核酸増幅検査)が行なわれています。NAT検査は、 従来法よりも早期にHIV感染したことが分かる新しい方法で、1999年10月から導入されました。検査の結果、HIV感染が確認された血液検体は全て焼 却されることになっています。献血された血液のHIV感染陽性件数は、2002年時点で10万件当たり1.418件(82件/5,784,101件)と なっており、10年前の1992年時点の10万件当たり0.441件(34件/7,710,693件)から少しずつですが毎年増加しています(2003年 9月、病原微生物検出情報)。
2. 性的接触による感染を防ぐための安全なセックスの実行:コンドームの使用。不特定多数のパートナーとの性交渉を避ける。感染のリスクの高い肛門性交をさけることなど。
3. 母子感染の防止策:感染した母体から約30%の頻度で児に感染するといわれていますが、感染母体および出生児への抗ウイルス薬(AZT やネビラピン)の投与によって、感染を防ぐことが可能となっています。エイズは依然その拡がりを制御することが困難な病気ですが、少なくとも、母子感染に よる次世代の感染に関していえば、現在の医学によってすでに予防可能な状況となっています。
4. その他、臓器・角膜移植などによる稀な感染例が知られていますが、蚊による刺咬や、握手、抱擁、軽いキスなどの日常的な接触(カジュアル・コンタクト)によっては感染しません。
感染予防の究極の方法はワクチンです。しかし、HIV は、その表面にある抗原の種類が個々のウイルスごとに多様性があり、かつ著しい変異性を示すこと、HIV が免疫応答の中枢にあるヘルパーT 細胞そのものを破壊することなどに加えて、ワクチン開発研究のための優れた動物モデルがないことなど様々な要因から、ワクチンの実用化の目途はまだたって いません。新たな感染の90%が高価な薬物療法の恩恵を享受できない開発途上国に発生していることを考えると、有効なワクチンの一日も早い開発が望まれま す。
